2024年7月13日土曜日

破産債権の意義と破産手続上の取扱い

破産債権の意義と破産手続上の取扱い


1 はじめに

破産債権者は、その有する債権のうち一定の要件を満たすものをもって、破産手続に参加することができ、そのような債権を破産債権(法2条5項)といいます。


破産手続は、破産者の破産手続開始時の財産を換価し、債権者に公平・平等な満足を与えるものです。そのため、破産債権は、原則として、破産手続によらないで権利行使をすることが禁止されます(法100条1項)。破産債権者は、破産債権の届出をすることにより破産手続に参加し、債権の調査確定手続を経て、破産財団から配当を受けることによって、破産債権の順位及び額に応じた弁済を受けることになります。


本稿では、「破産債権」の定義・範囲について確認し、破産手続における破産債権の取り扱い等について概観します。


2 破産債権の意義・範囲

破産債権とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であり、財団債権に該当しないものをいいます(法2条5項)。


⑴ 破産手続開始前の原因


破産債権は、「破産手続開始前の原因」に基づいて生じた請求権でなければなりません。手続開始時においてすでに請求権が発生している必要は無く、債権の発生原因が手続開始前に存在していれば良いとされます。例えば、保証債務履行前の保証人の求償権や、履行期が到来していない債権、解除条件・停止条件付債権等も、発生原因が破産手続開始前であれば破産債権となります。


このように、破産債権が破産手続開始前の原因によるものに限定されているのは、破産財団の範囲が破産手続開始時の債務者の財産に限定されていること(固定主義、法34条1項)と対応しています(「破産財団の範囲」)。


⑵ 財産上の請求権


破産債権は、破産者に対する財産上の請求権に限られます。これは、破産手続が破産者の財産関係の処理を目的とするものであるためです。金銭債権のほか、物の引渡請求権のような、非金銭債権であっても金銭的評価ができるものも含みます。


一方で、不代替的作為(ex.演奏会への出演)や不作為(ex.特定の製品を製造・販売しないこと)請求権等は含まれませんが、破産手続開始前に、これらの不履行により損害賠償請求権に転化した場合、その損害賠償請求権は破産債権となります。


3 破産債権の取扱い(等質化)

破産債権には、金額が不確定なものや非金銭債権等、多様な種類の債権が含まれるため、破産手続に参加するに際して、破産手続開始時を基準にして等質化されます。


⑴ 現在化


期限付債権の期限が破産手続開始後に到来すべきものであるときは、破産手続開始時に弁済期が到来したものとみなされます(現在化、法103条3項)。


⑵ 金銭化及び額の確定


非金銭債権(ex.物の引渡請求権等)は、破産手続開始時を基準に評価し、その評価額が破産債権の額となります(金銭化、法103条2項1号イ)。破産債権の金銭化は、債権調査確定の効果として生じるため、債権調査が留保されたまま異時廃止で終了したような場合、金銭化は生じません。


金額が不確定な金銭債権及び外国通貨金銭債権は、破産手続開始時における評価額が破産債権の額となります(法103条2項1号ロ)。


条件付債権及び将来の請求権は、その全額が破産債権額となります(法103条4項)。


4 補足:養育費請求権について

養育費について、破産手続開始前に将来分を含めた支払合意等がある場合、破産手続開始時までに支払時期が到来したが未払となっているものは破産債権となります(もっとも、免責はされません(法253条1項4号))。


一方で、破産手続開始前に将来分を含めた支払合意等がされたものの、破産手続開始後に支払時期が到来する養育費請求権が破産債権に該当するか否かは、見解が分かれます。もっとも、養育費請求権が、未成熟子に対する所定の親族関係や扶養状態という関係に基づき日々新たに発生する性質の権利であることを考慮し、破産手続開始後に発生する分は、破産債権に該当しないという見解が一般的です。


これは、婚姻費用分担請求権(民法760条)及び扶養料請求権(同877条)についても同様に考えられています。


5 破産債権の順位

破産債権は、その順位及び額に応じて平等に弁済を受けることになります(債権者平等原則、法194条)。順位は、優先的破産債権(法98条1項)、一般破産債権、劣後的破産債権(法99条1項)、約定劣後破産債権(同条2項)の順となります。


以下は、各破産債権についてまとめた一覧表です。


 


 


 


 


 


 


 


 


優先的破産債権


 


 


 


 


 


 


 


 


【概要】


破産財団に属する財産について、一般の先取特権その他一般の優先権がある破産債権(法98条1項)。以下の通り、優先的破産債権間にも、民法、商法その他法律の定めるところによる優先順位がある(法98条2項)。


※これらの債権の一部は財団債権(法148条1項3号・法149条)となるので注意(「財団債権」記事のリンクを貼る)。


【具体例】


(第1順位:公租)


国税及び地方税を指す(国税徴収法8条、地方税法14条)。


(第2順位:公課)


国税徴収の例により徴収することができる債権のうち、国税及び地方税以外のもの(ex.社会保険料等)を指す(国民健康保険法98条、厚生年金保険法88条、健康保険法182条等)


(第3順位:その他の私債権)


一般の先取特権(民法306条)を有する破産債権であり(ex.労働債権)、この中の優先順位は一般先取特権の順位に従う(民法329条)。


一般破産債権


詳細は前記2を参照。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


劣後的破産債権


 


 


 


 


 


 


 


 


 


【概要】


他の破産債権に後れ、一般破産債権が配当を受けた後に限り、配当を受けることができる破産債権(法99条1項)。


劣後的破産債権内での優劣の順位はない。


【具体例】


①法97条1号から7号までに掲げる請求権(法99条1項1号)


⑴ 破産手続開始後の利息、延滞税、利子税及び延滞金等(法97条1号・3号)


⑵ 破産手続開始後の不履行による損害賠償または違約金請求権(同条2号)


⑶ 租税等の請求権で破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの(同条4号)


⑷ 加算税又は加算金等(同条5号)


⑸ 罰金等(同条6号)


⑹ 破産手続参加の費用(同条7号)


②無利息の確定期限付債権の中間利息相当額(法99条1項2号)


③不確定期限付無利息債権の債権額と評価額の差額(法99条1項3号)


④金額及び存続期間が確定している定期金債権の中間利息相当額(法99条1項4号)


 


 


 


約定劣後的破産債権


 


 


 


【概要】


破産債権者と破産者との間において、破産手続開始前に、当該債務者について破産手続が開始されたとすれば当該破産手続におけるその配当の順位が劣後的破産債権に後れる旨の合意がされた債権(法99条2項)。


※債権者集会における議決権も有しない(法142条1項)


【具体例】


劣後ローン、劣後債。


 


6 おわりに

破産者について破産手続が開始すると、その後の破産債権者による権利行使には厳格な法的制約が課されます。そのため、債権者の方は、自身が破産者に対して有する権利の性質を踏まえた対応が、破産手続の申立てを検討している方は、自身が負う各債務について、それぞれの性質に応じた対応が、それぞれ必須になります。


いずれも専門家による判断を要する事項であり、対応を誤ると破産手続上問題視され、トラブルに発展する可能性もあります。

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