GoPro「凋落」の理由、華々しいスタートアップの紆余曲折を振り返る 大きな分岐点は8年前に
例年9月ごろに新製品を発表するGoProだが、今年は9月11日に新モデル、「GoPro HERO 13 Black」と小型の「HERO」を発表した。HERO 13は即日販売開始となったが、HEROの方は予約販売となっている。 【画像を見る】15年前のGoProがこちら。GoProの歴史を振り返る(計13枚) すでに多くのYouTuberがHERO 13を購入してレビューを公開しているが、あまり芳しい評価にはなっていないようだ。さらには経済紙を中心に、9月中旬から”GoPro凋落”といった趣旨の記事が展開されている。8月19日に、全社員の15%に相当する140人のリストラが発表されたことを受けて書かれたものだろう。 GoProは、1社でスポーツ撮影専用カメラというジャンルを築き、2010年代のスタートアップとして華々しい成果を上げてきた。確かに現在に至るまで当然紆余(うよ)曲折のあった企業だが、なぜ今、多くの人をガッカリさせる事になったのだろうか。 今回はGoPro HEROの歴史をおさらいしながら、アクション系カメラを取り巻く市場の変化を考察してみたい。
イノベーティブ時代のGoPro
筆者がGoProの「HD HERO」というカメラを最初に見たのは、10年のNABショーの会場である。すでに米国では1月から販売が始まっていたようだが、放送や映画向け機材がひしめくプロフェッショナル向けのショーに、たった300ドルのカメラをひっさげて大々的にブース展開した、新進気鋭のベンチャーであった。 その前に当時の背景を語っておかなければならない。コンシューマーにおける動画カメラは、長らくハンディカムに代表される、ビデオカメラに席巻されていた。1995年にDVカメラが登場し、03年にハイビジョンを記録するHDVフォーマットが登場すると、日本では地上デジタル放送がスタートしたこともあり、国内は高解像度方向に走り出した。 一方米国では全く異なる動きが展開されていた。06年ごろにベンチャーのPure Digital Technologiesという会社が、安価なCMOSセンサーを使った小型のMP4カメラ「Flip Video」をリリースし、大ヒットしていた。感覚としては、日本においてカシオのデジタルカメラ「QV-10」がデジタルメモツールとして活用された感じだ。動画でメモれるツールとして脚光を浴びたのである。それ以降、2匹目のドジョウを狙って中国企業がわんさかMP4カメラを作って米国市場に乗り込んできていた。 GoProはそんな中で、コンシューマーではなくプロ業界に打って出たわけである。 GoPro開発のエピソードとして、CEOのニック・ウッドマン氏が趣味であるサーフィンの動画を撮りたいからという理由が語られているところだが、300ドルでモニターもないMP4カメラをコンシューマーではなく、プロ業界に持ち込んだ理由は明確であった。それは、壊れても惜しくない値段で、そこそこの絵が撮れるカメラ、というポジションである。 このメリットに、多くのプロはすぐ気づいた。日本はスペック偏重主義のために様子見であったが、米国ではかなり導入されたようだ。撮影し終わってメモリカードを取り出してみないと、何が撮れているか分からないカメラを使うという強メンタルは、米国の映像業界ならではだろう。 11年の「HD HERO2」は、マイク入力やHDMI出力が搭載され、HD/120pまで撮影できるように拡張された。ただしまだモニターはない。別売のモニターユニットと合体して、ようやく何を撮っているか分かる。だがこれは米国でさらに大ヒットした。 この頃にはすでにGoProは、日本のカメラメーカーからも無視できない存在に成長していた。小型で頑丈、広角で激しい動きの撮影に使えるという、新ジャンルを築いたからである。 12年にはソニーが、初めてのアクションカム「HDR-AS15」をリリースしている。HD解像度でモニターなし、本体に防水防塵機能なし、固定するにはハウジングに入れるといった仕様は、まさにHD HERO2を下敷きにしている。 だが同年登場したHERO3は、さらに上を行った。ホワイト・シルバー・ブラックという3エディション展開でブラックが最上位であるが、早くも4Kが撮影できた。15fpsでしかなかったが、まだまだ4Kカメラが気軽に買えない時代に、4Kのソースを使って圧縮伝送や放送実験をやりたい日本の企業や大学の研究室で重宝された。ソニーをもってしても3年遅れを喫するというほどの、先進性であった。 13年には、「HERO3+」というリファインモデルが登場した。4にまでは至らないという改善であったのだろう。当時暗所に弱いという点が指摘されたのを受けて、暗いところでは自動的にfpsを落として画質を上げるという、オートローライト機能を搭載した。また4:3で撮影した映像を、中心部分はそのままに、端の方だけ引き延ばして16:9にするという、妙なモードを搭載した。若干苦し紛れの時期だったのかもしれない。 14年には、ソニーが「HDR-AS100」で本体のみで防塵防滴仕様というカメラをリリースしてきた。一方GoProは、同年の「HERO4」で4K/30p撮影を可能にしたほか、初めて本体にタッチパネルを搭載した。ようやく本体だけで、何を撮ってるのか分かるようになったのである。ただしブラックエディションなのに、ボディーカラーはシルバーである。 ソニーがようやくGoProに追い付くのが、15年だ。「FDR-X1000V」で4K化を達成したが、ここまで来るのに3年かかっている。一方GoProは、年末にようやく小型モデル「HERO4 Session」をリリースするが、1年かかって小型化したものの、機能に新規性がなく、失速した。
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