2021年8月21日土曜日

個人再生 民事再生 弁護士

 そもそも個人再生とは?簡単におさらい

個人再生とは?

一言で説明すると、現在の資産や今後の収入では、すべての債務の返済が困難で、このままでは破産…という状態の方が、返済困難だと裁判所に認めてもらい、税金や養育費などの例外を除く、すべての債務の返済額を大幅に減額してもらい、分割で支払っていく手続きです。債権額によって変わりますが、5分の1程度に圧縮されると説明されることが多いです。分割払いは原則3年間で行い、特別な事情がある場合には、裁判所の許可をもらって最長5年とすることができます。

個人再生は、民事再生法という法律に基づいて行います。民事再生法には、大きく分けて通常再生と個人再生の2つが定められています。基本的には、通常再生は会社や規模の大きな自営業の方が、個人再生はサラリーマンやOL、アルバイト、規模の小さな自営業の方などが利用をします。


個人再生を利用できる場合とできない場合

個人再生では、債務が大幅に減額されますが、それでも「支払っていく手続き」です。民事再生法には、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」がある場合に利用できると定められているため、収入が不定期であったり、そもそも収入がなかったりする場合には利用できません。また、定期的な収入があっても家計に余剰が無いなど、支払っていくことができない場合は、利用できません。

この他、住宅ローン(この後に説明する住宅資金特別条項を利用する場合)や税金などを除く一般の債務が5000万円を超える場合には個人再生は利用できません(通常再生であれば利用は可能です)。


「小規模個人再生」と「給与所得者再生」

個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生と呼ばれる2種類の手続きが用意されています。原則は小規模個人再生で、給与所得者等再生は特則となっています。小規模個人再生では、手続きを進めて債務を大幅に減額することについて、債権者の意見を聞きます。債権者の頭数で過半数、もしくは債権総額の過半数分の債権者が積極的に反対意見を出した場合は、小規模個人再生を続けることができなくなります。例えば、債権者が5社いて、債権の総額が1000万円だった場合、債権者の内3社が反対するか、500万1円以上分の債権者が反対した場合は、小規模個人再生を続けられません。現実では、大口債権者1〜2社の反対で債権総額の過半数分の反対があったため、手続きが続けられなくなるといったことがありえます。債権者は、もっと頑張れば任意整理でより多くの金額を支払ってもらうことができるはずだと考えたり、さまざまな理由で反対してくることがあります。なお、ここでいう反対とは積極的な反対や異議があった場合なので、何も意見を言ってこない場合は、賛成したものとして扱われます。

一方で給与所得者等再生においては、債権者の意見を聞くことなく手続きを進めることができます。小規模個人再生では債権者に反対されるおそれがある場合などに、給与所得者等再生を選択することがあります。ただ、債権者の意見を聞かない代わりに、最終的な返済額の基準が1つ増えます。法律用語で可処分所得の2年分と言いますが、分かりやすく説明すると、今の収入で2年間かなり切り詰めた生活をした場合に(一般的には生活保護を受給されている方を基準にします)余る金額を返済額の基準の1つにするということです。これが計算してみると意外に高額になることが多く、手続き後の最終的な返済額が、小規模個人再生の場合より高額となってしまう場合があります。そのため、小規模個人再生が利用できそうなら、小規模個人再生を利用するのが一般的です。


個人再生のメリット

個人再生のメリットは、なんと言っても、債務額が大幅に減額になることです。

減額についてまとめると以下のようになります。表内の最低弁済額とは法律で定められている最低限返済しなければならない金額のことです。


借金総額 最低弁済額

100万円未満 借金総額

100万円以上500万円以下 100万円

500万円超1,500万円以下 借金総額の5分の1

1,500万円超3,000万円以下 300万円

3,000万円超5,000万円未満 借金総額の10分の1

スクロールできます

借金の減額に加えて魅力なのが、住宅ローンの残っている自宅不動産について、民事再生法が定める条件を充たす方は、住宅ローンだけはこのまま約束通りに返済していき、自宅不動産を維持することができることです。これを法律用語で、住宅資金特別条項と言います。

個人再生は、自己破産を利用できない、もしくはしたくないという方が利用することが多い手続きです。ギャンブルなどの免責不許事由があり、自己破産をしても免責許可(債務の返済義務を法的になくすという裁判所の許可)がもらえないおそれがある場合に、自己破産ではなく個人再生の利用を勧めることも多くあります。個人再生においては、借金の理由がギャンブルであったとしても、大幅減額が不許可になる理由とはなりません。もっとも、債権者が反対してくる理由にはなりますので、少し注意が必要です。また、自己破産のように、財産が処分されることは基本的にありません(ただし、自動車ローンなどで担保にとられている場合は除きます。このあと説明する清算価値との関係でとても高額な財産は別ですが、数十万円程度の自動車などであれば維持できることも多いです)。この他にも自己破産の場合は一時的に就けなくなる職業(警備員、生命保険募集人などの制限職種)がありますが、個人再生にはそのような制限はありません。制限職種に該当する職についている方が、個人再生を利用することも多くあります。


個人再生のデメリット

一般の人には手続きがとても難しく、時間もかかることも

個人再生は、民事再生法に従って、裁判所を利用する手続きです。債務が大幅に減額になるというかなりのメリットがある反面、そのメリットを受けるためには、大量の書類を用意しないといけません。必要な書類は裁判所によって多少異なりますが、一般的に、給与明細、持っている銀行口座すべての1〜2年分の履歴、源泉徴収票や課税資料、保険証券と解約返戻金資料、退職金資料などの、財産や収入に関係する資料は必須です。また、毎月家計簿を作成していただく必要がありますし、借金の経緯なども分かりやすく文章でまとめないといけません。住宅資金特別条項を利用する場合は、住宅ローン契約書、登記簿謄本、不動産査定書は最低限必要です。

特に裁判所に提出する申立書の作成や、今後の分割払いの詳細なスケジュール表(再生計画案)の作成などは、法的な専門知識や経験が求められます。書類の準備から申立書を作成して裁判所に申立てをするまで、何ヶ月もかかることも多いです。しかも、申立てたあとも返済額を確定させたり、債権者から意見を聞いたりするなどに時間がかかるため、それからさらに半年以上かかることも珍しくありません。


手続き自体にかかる費用がある

弁護士費用の他に、裁判所に納める予納金という手数料がかかります(弁護士などに依頼する場合は、弁護士費用に含まれていることもあるので、確認しましょう)。裁判所や案件によっては、個人再生委員という監督者のような人が裁判所から選ばれることがあります。個人再生委員はほとんどの場合は弁護士が選ばれるため、報酬が発生します。裁判所にもよりますが、一般的に15〜20万円とされることが多いです。


信用情報機関に事故情報として登録される(ブラックリスト)

個人再生をすると、信用情報機関に事故情報の登録がされます。信用情報機関とは、消費者金融、クレジットカード会社、銀行などの金融機関が業界ごとにつくっているデータベースです。このデータベースに、個人再生をした情報が登録されることで、審査が通らないということが起こります。これが俗に「ブラックリストに載る」とか、「ブラックになる」と呼ばれる状態です。信用情報機関に事故情報が登録されると、しばらくの間(一般的には7〜10年間)は借入れが難しくなります。


官報に掲載される

個人再生をすると、官報に名前や住所などが掲載されます。官報は国が発行する新聞のようなものとよく言われますが、普通の新聞とは違い、普通の本屋やコンビニなどでは販売していません。裁判所併設の本屋などの官報販売所でのみ販売しています。一般の方が官報を購読していることはほとんどないので、官報の掲載によって個人再生をしたことが周囲にばれたといった話はあまり聞いたことがありません。可能性はゼロとは言えませんが、過度に心配する必要はないでしょう。

ちなみに官報に掲載される理由は、漏れている債権者がいないかの確認のためなどなので、金融機関はチェックしていることが多いです。


保証人がついている借金がある場合は、保証人に影響が出る

債務に保証人がついている場合、債権者(金融機関)は保証人に対して返済を求めることになります。債権者は、借主が返済できなくなったときに備えて保証人を確保しているのですから、保証人へ請求しないようにさせることはほぼ不可能です。


個人再生のデメリット以外に注意点は?

任意整理と違い、債権者は平等に扱われる

個人再生では、債権者はすべて平等に扱われます。例えば金融機関だけでなく、勤務先や友人からお金を借りている方が、これらには迷惑をかけたくないから個人再生に巻き込まないでほしいとの希望があっても、それは叶いません。金融機関からの借金と同様に、依頼をした弁護士から受任通知を送ります。民事再生の手続き外で返済することは禁止され、減額された金額を分割で支払っていくことになります。

もっとも、まったく手段がないわけではありません。迷惑をかけたくない債権者の分を第三者(別居の両親など)から援助を受けて完済した場合は、個人再生に巻き込まなくても済むことがあります。ただし、第三者の援助で支払ったことの証拠をしっかり残しておくなどの注意が必要です。専門知識がないと対応が難しいため、ご自身の判断で勝手に行わず、弁護士などの専門家とよく相談することが大切です。


自己破産と違い、手続き後に支払いが残る

自己破産では、免責許可をもらうことで、原則すべての債務の返済義務が法的になくなりますが、個人再生では減額後の金額を支払っていく必要があります。個人再生が裁判所に認められた(再生計画が認可された)としても、そこで終了ではなく、むしろスタートすると考えた方が良いでしょう。


罰金や税金などは減らない

個人再生の手続きをしても、あらゆる債務が減額になるわけではありません。具体的には、刑事罰の罰金や税金、公的年金、公的国民健康保険料などの、国や自治体に納める債務の多くはそのまま支払っていく必要があります。

また、養育費などの扶養義務に関する債務も減額にはなりません。交通事故の人身の損害賠償債務、犯罪被害者への弁償債務も減額にならないことが一般的です。これらは、いったん他の債務と同様に圧縮された金額を分割払いしていき、計画通りに支払い終わったあとに、残りの金額を支払っていくことになります。


手続きが裁判所に認められないことがある

すでにご説明したように、個人再生を利用する条件を充たさない場合は、裁判所は手続きを認めません。弁護士に個人再生を依頼した当初は条件を充たしていたが、その後収入が下がったなどの事情変更によって条件を充たさなくなることもあります。


住宅に担保権がついているなど、住宅が保持できない場合がある

住宅資金特別条項は、住宅ローンを他の債務より優先させて支払うことを法律で認めることになりますから、利用には少し厳しい条件があります。このような優先を認める理由は、住宅が国民生活の上でとても重要なものであるからと考えると分かりやすいでしょう。その条件とは、住宅の不動産に住宅ローン以外の債務の担保権(抵当権)がついていないことです。もしついている場合、その債務は優先させることができず支払いを止める必要があるため、担保権を実行されて住宅を維持することができなくなります。このため、住宅ローン以外の債務の担保権が設定されている場合は、住宅資金特別条項は利用できないのです。

他にも住宅ローンの中に、住宅購入資金(火災保険料や登記費用などの住宅購入に当たって密接に関係する費用が入っていても大丈夫なこともあります)以外の費用、例えば自動車購入資金が含まれている場合には、住宅を特別扱いする理由から外れてしまいますので、住宅資金特別条項を利用できないことがあります。


返済額があがることがある

個人再生は、3~5年間、債権者を手続きに付き合わせていることになります。債権者の中には、安い金額を長い期間で支払ってもらうより、破産してもらって、額は少なくてもすぐに手に入ったほうが良いと考えるところもあるでしょう。こういった債権者側の考えを保護するため、個人再生においては、今すぐ自己破産したときに債権者に配られるであろう金額(これを「清算価値」と言います)よりも、多くのお金を個人再生では返さないといけないという制度があります。これを法律用語で、清算価値保証原則と言います。

例えば、負債額だけで見ると、負債総額が1000万円であれば、5分の1の200万円を支払えば済むということになります。しかし、株を持っていてその価値が300万円だった場合、自己破産すると300万円全額が処分される可能性が高いです。このため、個人再生においては300万円を分割で支払わないといけないということになります。この清算価値でもっとも怖いのが、住宅ローンがアンダーローンになっているときです。例えば、住宅ローンの残りが1000万円であるのに、住宅の査定価値が1500万円だった場合、500万円を分割で支払わないといけないことになるのです。また、こういった返済額は足し算されていきます。つまり、株300万円と住宅アンダーローン500万円の場合、800万円を分割で支払わないといけないことになるのです。この清算価値保証原則により、個人再生でも支払いが高額すぎて、支払っていくことができないという方もいらっしゃいます。

また、債務総額には、裁判所で個人再生を進めることを許可する決定(手続開始決定)までの遅延損害金も付加されます。書類収集に時間がかかり、想定以上に決定まで時間がかかってしまった場合には、その分返済額が上がってしまうこともあるのです。


個人再生を検討する前に確認しよう

転・退職の予定や退職金の予定額

すでにご説明したように、個人再生は、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」がある場合に利用できます。転職をして間もないと、今後継続的に又は反復して収入を得る見込みがあるか、判断材料が少なくなるため、見込みがないと裁判所に判断されてしまうリスクが上がることがあります。同じ理由で、退職して無職になっている間も、当然ですが個人再生は利用できません。もし個人再生の利用を検討しているならば、安易な転職や退職は控え、慎重に考えるようにしてください。

また、退職金予定額は、すでに説明した清算価値に加算されることがあるので、正確な金額を把握しておく必要があります。実際に受け取る前の退職金は、4分の3が法律で差押えを禁止されています。この兼ね合いで、退職予定でまだ退職金を受け取っていない場合は、退職金の4分の1の金額が清算価値に加算されることになります。また、退職予定がない場合には、まだまだ受け取ることができるのは先だということで、多くの裁判所が半分に減額評価をしてくれます。このため、8分の1の金額だけが清算価値に加算されることになります。具体的には、現在の退職金が800万円の場合、すでに受け取っていた場合は基本的に800万円全額、退職予定だがまだ受け取っていない場合は200万円、退職予定がない場合は100万円が清算価値に加算されることになります。金額にかなりの差が出ますので、退職金が高額の場合は、退職時期を慎重に判断する必要があります。


他の債務整理の方法は検討しましたか?

基本的な考え方として、個人再生は、自己破産を利用できない、もしくはしたくないという方が利用する手続きです。破産も個人再生もどちらも選択できる場合は、基本的に圧倒的な経済的メリット(借金の返済義務がなくなる)で、生活の立て直しが容易になる自己破産を選択することが多いです。もっとも、心情的な理由であえて個人再生を選択する方もいらっしゃいますので、素直に弁護士への依頼時に相談してみてください。

また、住宅を維持することができる債務整理手続きには、他に任意整理があります。この場合は勤務先や友人などの個人債権者を巻き込まずに手続きをすることができることもありますので、弁護士に希望を相談してみてください。


過払い金が発生していないか、確認を忘れずに!

また、長い間借金をしている方の中には、過払金が発生している方も多くいらっしゃいます。過払金の清算・回収によって、個人再生をしなくて済むこともあるのです。


法律事務所に依頼し,実際に個人再生をされた方の事例が掲載されています。


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まとめ

今回の記事で、個人再生は手続きの煩雑さなどはありますが、住宅を残せるという大きなメリットを考えると、デメリットは比較的少ないと感じていただけたのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、個人再生は裁判所への申し立てなど、専門的な知識が要求される手続きです。また手続きをすれば、誰でも認めてもらえるものでもありませんので、弁護士に相談するのが賢明です。弁護士ならばそれぞれの事情に合わせて、個人再生だけでなく、他の債務整理の方法をご提案できるかもしれません。


個人再生について、少しでも気になることがあれば、弁護士にご相談ください。

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